光然の高野山修行日記 ・二  中半

鎮守、持仏、大師、食堂、大黒、荒神の順で礼拝をして、最後に荒神前で院内諸尊時の各種注意、反省点を伝えられた後、「おはようございます!」と寮監先生の大きな声の挨拶が響き、我々もそれに負けぬ声を返します。

ここからが専修学院名物「三分ダッシュ」の始まりです。

三分の間に自室に戻り、僧衣から作務衣へと着替えて戻るだけの事なのですが、後列でスタートを切る人や、寮の三階まで戻らなければならない人は手を抜いて走る事は許されません。

挨拶が終るか終らぬかの内に、それまで固まるように整列していた六十名超の集団が駆け出すのは中々迫力が有る見ものと言えるでしよう。
院内の移動はスリッパ履きのため足元が少々悪く、集団の中でうっかりコケてしまうと、後続者の迷惑を掛けてしまう申し訳なさもさることながら、踏みつけられないよう身を小さくして、奔流が過ぎ行くのを待つしかない状況に陥るので注意が必要となります。

無事自室にたどり着いたなら、急いで着替え雑巾を握りしめ、部屋から飛び出します。この際、作務衣の紐を結びながら走る姿を見咎められると厳しい叱責を受けてしまいます。
慌ただしく皆が集会所に集まり始める頃、当日の日直が三分経った事を知らせる点呼の鐘を叩き始め、叩き終わるまでに全員が合掌して待機をするよう習慣づけられていきます。間に合わなかった場合は、「遅刻一」としてカウントされるのはまだ良いですが、その日の寮監先生の腹の内一つで処遇が決定されるので、たかが遅刻一つと悔ると大ヤケドをしてしまう事請け合いと言ってよいでしよう。