光然の高野山修行日記 ・十四 前半

四度加行が始まると、学院生活にも変化があります。今回は一学期との比較も含めた朝から始まる流れをお話いたします。

起床の鐘が鳴らされる時間が一時間早くなり、朝五時から四時となりました。たった一時間の変更ながらも睡眠を求める体には大きな変化と言えます。

四時の鐘から十分後に今度は集会の鐘が鳴りますが、朝勤行のために集会所に集まっていた一学期とは変わり、朝の加行を行うため持仏堂と言われる畳敷きの大きな部屋に集合する事になります。

話が少々脱線致しますが、四度加行三座行われて、起床後の加行は「後夜行」、朝食後は「日中行」、昼過ぎは「初夜行」と呼ぶ慣わしになっていました。

一学期なら起床の鐘が聞こえてからでも、飛び起き、布団を片付け、着替えて走れば集会の鐘に間に合っていましたが、加行中は少々勝手が違います。

まず加行の座が始まる前に、持仏堂に定められた自分の座坪に如法衣(お袈裟)を置いた上で、道場に向かい蝋燭等の点香を終えていなければなりません。
一度如法衣を置いて行為は行えないので、お手洗い等は先に済ませておかなければいけない所も要注意事項です。

点香をするためには、そのために準備も必要になります。前日までに出来る準備は火舎(焼香をするための器)の灰を固め抹香を盛る、行法で用いる樒のセット、塗香の形を整える等慣れていれば十分程度で可能なものです。

しかし、お説教などが入り、その前日の準備すらも叶わない事も時にはあり、さらには樒を摘んでいない場合はさらに時間が掛かります。

補足をすると、行法で用いる樒を再利用する事は禁じられていて、一日に七十枚ほどを用意する必要がありました。二日分までならば予備の確保も許されていたので、ほとんどの学院生は空いた時間に摘んだ樒を指三本分の長さに整え、持参した製氷皿に差し込んでいました。

仏様へお供えする樒なので、シミや虫食いがあるものは使用できず、大きさにバラつきがあってもいけません。

さらにはハサミの刃は血の穢れに繋がるので、樒を重ねて一度に整える事も出来ません。かと言って素手で重ねた樒を綺麗に切り整える事は難しく、またお供えに用いる樒を雑に大量生産する事は許されていません。一枚一枚、指で長さを測りながら樒を折っていく事が一番の近道でした。、

樒に関する思い出が多数あるために、思わず多く語り過ぎてしまいました。