光然の高野山修行日記 ・七 中半

そこから一般の院生達も続いて「咒願(しゅがん)」と呼ばれる、施しをして下さった方々の災いを祓い福を増すお経をお唱えします。
ここで出始めの「三鉢羅佉多(さんぱらぎゃた)」があまりにも良い滑り出しだと、本来院生が入らない「平等行食」をつい言ってしまう者が出て来てしまいます。
うっかり「びょ」と口から洩れて、慌てて口を噤んでも、常日頃から「学院内では誤ったお経、おかしな所が出たら続くな」と釘を刺されているので、離れている日直はそれに気が付かず続けていても、先走った者の周囲から次第に皆が押し黙っていく景色。これは出来ればあまり体験したくは有りません。

特に日直など配役に当たっている者は、何かのミスが院生全員の時間を奪う事に繋がってしまうので、自分ではなく他人がおかしな事をしたと分からない場合は、ちょっとドキドキしてしまうものです。

閑話休題。「咒願」が終ると、次は「十佛名(じゅうぶつみょう)」その名の通り様々な仏菩薩の名をお唱えします。

続いて「般若心経」を一巻お唱えし、「展鉢偈(てんぱちのげ)」にて、施しをして下さる人々の心が御仏の教えをして下さる人々の心が御仏の教えに適うものとなるようにお唱えします。

唱え終ったところで、日直が「出生食!(しゅっさば)」と宣言をし、一同お盆の右奥に置かれた「生食皿(さばざら)」と呼ばれる水が注がれた小さな丸い皿を右手の親指と中指で持ち上げ、左掌に乗せます。

そして右手に箸を取り、お米を御仏に捧げ、また衆生と鬼神に施す思いを込め一粒一粒、都合七粒を生食皿に入れます。七粒入れ終えたら、箸を置き(片手で置く事になるので音を立てないように慎重に)、両掌に生食皿を乗せ、軽く持ち上げて仏様に捧げます。

そうすると、各列の両端から生食皿に入っているお米と水を集めるお椀が回って来るので、生食皿に米粒が残らないよう素早く中身を移します。

光然の高野山修行日記 ・七 後半に続く