骨太な生活

釈尊(紀元前五六六~四八六、前四六三~三八三など諸説)が、六年間の長い苦行に見切りをつけられた後、最初に口にしたのは、偶然通りかかった長者の娘、スジャータという名の少女が差し出した「乳粥」であったといいます。
 その粥で体力を回復させた釈尊は、菩提樹(ぼだいじゅ)の下で深い瞑想(めいそう)の後に悟りを開かれたとのことです。釈尊、三十五歳の時でした。
 牛を現代でも神聖視するインドでは、乳製品が好んで食されています。牛はヒンズーの神の乗り物だから聖なる動物とされます。
 スジャータが供養した乳粥も、牛乳で溶いたお粥ではなく、ヨーグルトのようなものだったといわれます。
 これらの乳製品が日本に伝来したのは、仏教伝来と同時期(飛鳥奈良時代の頃)だといわれています。仏教公伝は五五二年(日本書紀。元興寺縁起では五三八年)、百済の聖明王の使いで訪れた使者が、欽明天皇に金銅の釈迦如来像や経典、仏具などを献上したことが仏教伝来の始まりとされます。
 しかし、当時は、乳製品がまだ貴重であったので、貴族など一部の人たちしか味わうことができず、庶民が口にすることができるようになったのは、酪農が盛んになった明治時代以降からだそうです。
 牛乳を「精製」する過程で生じる五段階の味のことを、仏教では「五味」といいます。
 一般的には、五味とは、酸っぱい・苦い・甘い・辛い・塩辛いといった味覚のことをいいますが、仏教の「五味」は乳味(にゅうみ)・酪味(らくみ)・生酥味(しょうそみ)・熟酥味(じゅくそみ)・醍醐味(だいごみ)の五つの味を指します。五味のうち、「乳」とは、文字通り牛乳、「酪」とは、ヨーグルトや練乳のようなもの、「生酥」とは、生クリームのようなもの、「熟酥」とは、バターのようなもの、「醍醐」とは、バターを煮溶かした際に表面にできるクリーム状の浮きかす、あるいはその上澄みのようなもの(チーズという説もある)で、乳酪のうちで、最も精製された最高の味といわれています。
 この「五味」になぞらえて天台教学では、悟りに至る説法の順序次第を、華厳時、鹿苑時、方等時、般若時、法華・涅槃時、と五つの段階にわけています。
 真言密教の醍醐寺や、空海さまに弘法大師の号を贈られた醍醐天皇の「醍醐」も、この五味の醍醐からきているものです。
 「醍醐味」という言葉は、我々が日常的によく使用してますが、元来は仏教用語で、醍醐のように精製された味わい深いもの、すなわち釈尊の教え・真理という意味です。
 しかし、現在では、もっぱら「スポーツの醍醐味」といったように、本来それ自体が持ちうる、おもしろさを指す言葉として用いられることが多いようです。
 牛乳などの乳製品に含まれる栄養素として代表的なものに「カルシウム」があります。カルシウムは骨を形成する主成分ですが、筋肉の活動や神経の情報伝達にも必要な要素です。
 血液中のカルシウムが不足すると、我々の体は骨の中から養分を補おうとする働きをします。それにより、骨の密度が減り、「骨粗しょう症」を引き起こす原因になってしまいます。従って日常的に食事やサプリメントなどでカルシウムの適切な摂取を心がけることが必要になります。
 牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素を持たない(飲むとよくお腹を下してしまう)人が多い日本人には、乳糖の含有量が少ないヨーグルトやチーズのような乳製品が良いとされています。
 骨粗しょう症は、総患者数から見て、男性の約百万人に対して、女性は約八百万人と約八倍もなりやすい症状だといわれています。それは、加齢や閉経による女性ホルモンのバランスが変化することが主な原因で、また、若い女性の場合でも、過度のダイエットにより栄養分が不足したり、運動を全くしないことで、骨形成が阻害される傾向にあるようです。
 また、自覚症状がなく、骨折するまで気づかないことがほとんどです。脆くなった貧弱な骨のまま日常生活を送っていると、ちょっと躓いただけでも簡単に骨折してしまったり、また、それが原因で寝たきりになってしまうケースも多いとのことです。
 骨は、皮膚と同じように新陳代謝を絶えず繰り返しています。適度な運動により骨に刺激を与え、代謝の活性化を促しましょう。
 また、喫煙や過度の飲酒は、カルシウムの吸収を妨げるので控えましょう。
 さらに、冷凍食品やインスタント食品やスナック菓子に含まれるリン酸は、腸内でカルシウムと結合してリン酸カルシウムとなり、吸収されずに体外にそのまま排出されてしまうので、注意が必要です。同様に、食物繊維や、ほうれん草など「シュウ酸」を多く含む野菜もカルシウムの吸収を妨げるので、採りすぎには要注意です。
 欧米諸国に比べ、日本の水(天然水)には鉱山から流れ出すミネラルの量が少なく、従ってそれらを摂取する機会や量も減ってきます。成人が一日に摂取する必要があるカルシウムの量は六百ミリグラム(骨粗しょう症患者や妊婦の方、子供は八百~千ミリグラム)といわれています。
 欧米型の食事スタイルを好む方は、小魚や海草、野菜を中心にする「日本食」のスタイルに変更しましょう。
 また、マグネシウム、ビタミンD(日光浴をすることで体内で生成可能)を含む食品は、カルシウムが効率よく骨形成に使用される手助けをしてくれます。
 一度、減ってしまった骨密度も食生活や規律正しい生活を送ることにより、取り戻すことが出来ます。健康で快適に暮らせるように日々養生しましょう。
 補足ですが、どのような栄養素でも、採りすぎは返って体の毒です。一日に必要な分量だけ、適切に摂取することが重要です。健康食品やサプリメントでミネラルを採取する際は、特に採りすぎに気をつけましょう。

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