■幼き日よりみ佛さまと触れ合いを■
子供の頃、春・夏・冬休みの他に色々なお休みの度に、母
の実家に行きました。そして、必ずといっていいほどお佛壇
(ぶつだん)のお掃除が行事のようにありました。
今風の小さなものではなく、まずは広い仏間があり、部屋
の奥の襖(ふすま)を開けると二重に観音開きになった大人
の背ほどもある大きな佛壇でした。
いつ教えられたのかは覚えていませんが、仏間では大きな
足音たてたり、大きな声で話すことは禁止というより躊躇
(ためら)われました。といってもそれは怖れではなく、そ
こは聖なる場所であって、み佛さまに礼儀正しくということ
であったと思います。
ところで、お佛壇のお掃除には子供たちにも参加してもら
いましょう。小さな子供さんはお供物のお菓子を自分の手で
お供えしたり、高学年になったら大人が手を添えながらお飾
りのホコリを払ったりと、年齢に応じて何か出来ることがあ
ると思います。
難しい部分は大人が、簡単な部分は子供さんにしてもらっ
て、み佛さまとの触れ合いの時間を作ってあげましょう。
そして、そのうちに佛壇のお掃除の方法は勿論、どの様に
ご供養すれば良いかが自然に伝わっていくと思います。
佛壇のお掃除は特別行事ではなく日常の当たり前の事とし
て普段自分達の部屋を掃除するのと同じように、ご先祖さま
やみ佛さまに綺麗なお部屋(佛壇)に住んで貰いたいという
気持ちを持ってもらえたらと思います。
■お供え物■
み佛さまにお供えするお花も庭やお花屋さんで子供たちに
選んでもらうと良いと思います。
きっと、どの花が綺麗か、香りは良いかと、み佛さまが喜
んで下さるようにと一生懸命考えてくれるでしょう。
掃除の後は、お供物のお下がりを頂くのですが、祖母は
「佛さまのお下がりを食べると体の丈夫な賢(かしこい)優
しい子になれるんだよ。」と言って手の上に乗せてくれまし
た。
その時に頂くお菓子は普段と違う崇高(すうこう)な味が
したような気がします。普段おやつに食べている物でも、一
度み佛さまにお供えした物はとても有り難い、特別な物に思
えました。
■落雁(らくがん)のお供え■
お供物は特別な物でなくとも、私達が日常に頂いている物
を一番最初に良いところをお供えすることが大切ですが、お
供物を絶えないようにするために、干菓子(ひがし・落雁)
のお供えをされる方が多いようです。お供物が常にお供えさ
れているのは大変に良い心掛けだと思いますが、よく年代物
の落雁を見ることがあります。
落雁にも賞味期限があります。上等な和三盆(わさんぼん)
の落雁から落雁型のビニール入り砂糖まで色々とありますが、
つい自分たちが口にしないからと期限の切れた物を何時まで
も置いておく悪い習慣がついてしまっているようで残念に思
います。
■落雁・和三盆■
落雁はみじん粉(もち米を蒸し、乾燥し、粉にしたもの)
や麦焦がし、きな粉などに砂糖や色粉を入れて型で抜いたも
のです。中でも和三盆という上質のお砂糖を使用したものが
上等とされています。
和三盆は砂糖を練(ね)りに練り上げ、精製に精製を重ね
た純粋に近い砂糖で、高級菓子に良く使われています。
和三盆は輸入品より優れた砂糖をと、十八世紀ごろ琉球か
らサトウキビを取り寄せて試行錯誤し出来たものというお話
です。
和三盆というのは中国の唐三盆に対して日本で作られたと
いう意味から呼ばれているようです。
その製造法は和三盆の産地として有名な四国は讃岐にお住
まいの信徒さんに教えて頂いたところ、
一、サトウキビを圧搾し汁を絞り石灰を加えます。
二、沈殿物を除いて煮詰めます。
三、これに水を加えて捏(こ)ね、木綿の袋に入れて加圧し
分蜜します。
四、少量の水(寒の水)を加えては、すり合わせ練り上げる。
この工程を5回繰り返します。
荒がけ→荒研ぎ→どぶ研ぎ→中研ぎ→あげ研ぎ
と、練りを研ぐというのは丁度陶芸の粘土を練る感じでしょ
うか。そして、この過程で漂白され、自然乾燥しやっと白い
上質のお砂糖「和三盆」が生まれます。
ちなみに三盆というのは、蜜を取り分ける作業をお盆の上
で三度したからだそうです。
普通のお砂糖でも勿論結構ですが、和三盆を用いた物だと
お下がりも美味しく頂けます。
お下がりが美味しく頂けるということは、逆に言えば良い
ものを吟味して心を込めてお供えし、また新鮮であるとも言
えるでしょう。
袋詰めのお砂糖の場合も時々には新しい物に変えて、お下
がりは普段のお料理に使って頂いた方が佛さまも喜ばれると
思います。
日常の中で「一番にみ佛さまにお供えし、そして、そのお
下がりを有り難く頂く」。春のお彼岸を良き機会とし、この
良き習慣を幼い心にも、自然に伝えていきたいと思います。