日切り地蔵菩薩さま

観音院の正面の入口、お寺では山門(さんもん)と申しますが、山門を入り右手に「地蔵堂」がございます。
 山門と言われますのは、古くは寺院は人家を離れた高台や山林にあって修行の場として、寺院ごとに「山号(さんごう)」を有していた名残といわれます。
 この地蔵堂にお祀(まつ)りされております地蔵菩薩さまは、「願掛け」のお地蔵さまとして、信仰され、慈しみの心を成就(じょうじゅ)するために、願いを掛け、日数を切って(決めて)参拝すると、かなえてくださると言い伝えられており、「日切り地蔵菩薩」さまとお慕いしております。
 日数は七日、二十一日、四十九日(七七日)、百八日などの吉祥数で参拝し、誠意を示し、真心を捧げてご祈願する習わしです。
 昔から「お百度」祈願など盛んですが、現在も朝夕にお参りされる若者のお姿も絶えないと住職さまもおっしゃっておられます。
 お地蔵さまの前には浄水が満ち、ご参拝の皆さまからの供花が生けられています。
 ご参詣された際に、このお水をお地蔵さまにお掛けしますが、この時に「自らの罪障を洗い清めてくださるために、お地蔵さまが代わって水を掛けられる」もので、心に留めて、優しくお掛けして下さい。私たちはともすれば自分も気づかずに残酷なことをなし、悪とも知らずに犯す罪障もあります。
 罪障消除の「水掛(みずかけ)地蔵」さまともいわれます。
 また、皆さまが地蔵尊のお慈悲を慕いてペット供養・動物供養や花供養、魚供養、虫供養をお願いできます。
 毎月の二十三日と二十四日がご縁日となっております。
 ご真言は「おん かかかび さんまえい そわか」、お参りの時は七回または二十一回お唱えして自らの罪障の消滅と、精霊供養、所願の成就をご祈念いたします。
 最近はインターネットのホームページで観音院を知った若者たちがたくさんお参りに来られるようになり、仲の良いカップルが連れ立って法要に会われ、丁寧に行き帰りにお地蔵さまにお参りされることがほんとうに多くなったと、住職さまも感心しておられます。

 地蔵菩薩さまは胎蔵界曼荼羅・地蔵院の主尊であります。地蔵とはサンスクリット語で「クシティガルパ」、直訳すると「大地の蔵」です。胎蔵界は母の胎内にいるように慈悲に満ちあふれた世界ですので、御名の「大地の蔵」とは母の胎内そのものであり、皆さまを優しく慈育され、お導き下さるみ仏さまでございます。
 観音さまと並び、古よりご信仰される方が多い地蔵菩薩さまは、お釈迦さまのご入滅後、五十六億七千万年後、兜卒天(とそつてん)におられる弥勒(みろく)菩薩さまが成道(じょうどう)するまでの間、衆生済度を付託され、私たちの住む人間道を含む六道に赴き、現世のさまざま境遇にあって、苦しみ悩む私たち衆生を救済されるお優しいみ仏さまです。
 六道とは、地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道で、六道輪廻の思想(全ての生命は六種の世界に生まれ変わりを繰り返すとする)に基づき、六地蔵さまの信仰もあります。

■「宇治拾遺物語」のお地蔵さまと往生にまつわる一章をご紹介したいと思います。
 昔、丹後国(現在の京都府北部)に年老いた尼僧がおりました。
 尼僧は「地蔵菩薩さまはいつも夜明けにお歩きになる」という噂話を聞き、地蔵菩薩さまを拝みたいと願い、夜明けごとに外出しては歩き回っておりました。

 ある寒い夜明けに尼僧の姿を見たばくち打ちの男が、「尼さん、何をしているのか」と声をかけました。尼僧は「地蔵菩薩さまは夜明けにお歩きになるとのことで、お会いしたくて、こうして歩いております」と応えました。
 男はすかさず悪知恵をはたらかし、「お地蔵さんの歩く道なら、よく知ってる。ついて来なさい。そのかわり何かお礼をしてもらいたい」と言いました。
 すると尼僧は「私の着ている衣を差し上げましょう」、「それなら連れて行こう」。男は尼僧を、隣の家に連れて行きました。隣家には地蔵ならぬ「じぞう」という名の子供がおりました。隣家とは知り合いだったので、「じぞうは居るかい」と尋ねると、親は、「外に出ておりますが、もうじき戻ります」と言います。
 男は尼僧に「地蔵の居るところはここだよ」。尼僧は喜んで、衣を脱いで男に与えました。男はそれを受け取ると、急いでその場から立ち去りました。
 尼僧は、「お地蔵さまにお会いしたい」と言ってその場に座って待っておりますが、親はわけが分からず、「なんでうちの子に会いたいのだろう」と首をかしげているところに、十歳ばかりの子供が木の枝を手に持ちながら家に入ってきました。「じぞうが戻りました」と親が言うと、尼僧は「じぞう」を見るや、土間にひれ伏し、恭しく合掌しました。そのとき、「じぞう」は、何気なく枝で額を掻きました。すると額から顔が裂け、裂けた下から何ともいえず有り難いお地蔵さまの顔が現れました。尼僧が合掌しつつ仰ぎ見ると、まさしく地蔵菩薩さまがお立ちになっておりました。感激の涙で拝みながら、尼僧はそのまま往生を遂げたということでございます。 

▼観音院にご参詣の時は山門から入り地蔵堂の地蔵菩薩さまにお参りくださいませ。合掌九拝 浄寛

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