慈悲のみ仏「観音さま」

広島市の古地図に「永徳寺 観音院」が記されていますが、小さな観音さまのお堂が、広島市観音町の発祥のお寺として、近在の人々が日々参拝し、丁重にお護りされて、今日の観音院がございます。
 法主さまにお伺いいたしましたら、当時の観音院の南はすぐ海で、瀬戸内海の漁師さんたちやご家族のご信心も集め、航海安全・豊漁祈願の祈りが、現代までも捧げられ続けています。
 その後数百年にわたり、沖に向かって埋め立てられ、現在の観音新町までできたそうです。
 観音院の東の「天満川」には、昔、お寺専用の雁木(がんぎ)があり、戦後も恵俊僧正さまや法主さま、院主さまも、歴代の住職は江田島など広く瀬戸の島々にお参りされていました。
 観音院の「子安観世音菩薩さま」は、安産・育児のご守護、ご家族をお守りくださる観音さまとして有名で、人々に愛と光をもたらす優しい仏さまです。
 その深いお慈悲に、有縁(水子)供養では全国各地の善男善女人からご供養のご依頼が多く寄せられ、厚く信仰されております。
 この世に縁無くて日の目を見られなかった可愛そうな水子さまのご供養は、僧侶一同により永代に特に丁重に拝まれています。

 子安観世音菩薩さまは御胸には、子供さんを逆さに抱いておられる稀有な御姿でございます。
 母胎に大切に育まれた赤ちゃんがこの世に誕生する瞬間、助産師に優しく受けとめて頂いた姿です。
 わたくしどもがこの現世に生命を授かった瞬間から、母体の健康を守られ、胎児を慈悲で包まれる観音さまの御胸に暖かく抱かれるように、人の成長にともなって常にそのようにご守護下さいます。

 法主さまのお言葉に「人の幸せは、良い人との出会いで得られることが多いものです。良い先生との出会いで、その先生に教えられた科目が好きになる。来世で良い出会いがあることは正に観音さまの三十三現身と同じですね。
 困った時に助けてくれる人の多くは観音さまの化身です。」というのがございます。
 生涯を通して、観音さまの御慈愛につつまれて安らかに守護され、良い人間関係を育んで頂きたいと存じます。
 わが国でよく用いられる経典に「般若心経」と「観音経」がございます。インドより持ち帰られた経典を中国で多くの僧が翻訳しておりますが、わたくしどもが日常観誦している「般若心経」は三蔵法師玄奘(げんじょう)さまの訳で、観音さまを「観自在菩薩」と訳されています。玄奘さまの翻訳を新訳、それまでのものを旧訳といわれることもあります。
「観音経」は独立した経典ではなく、「妙法蓮華経観世音菩薩普門品(ふもんぼん)第二十五」が正式名称で、鳩摩羅什が訳されたのを用いております。
 ここで「観自在」と「観世音」と二つの御名が出てまいりますが、「観自在」とは、衆生を観察して、その苦を救うのが自在な菩薩さま、「観世音」とは、衆生が諸苦から脱れようと、助けを求めて発するその声を観じて、ただちに救済する菩薩であります。
 御名は経典・翻訳者で違えど、大慈大悲をもって衆生を救う本願をお立てになられているありがたきみ仏さまでございます。
 有名な西国三十三観音霊場めぐりをはじめ、日本各地に三十三観音霊場めぐりがございます(秩父は三十四観音)。 
 この三十三という数字は宗教的な数字で、インドの神話「リグ・ヴェーダ」では天界・空界・地界にそれぞれ十一の神を配し、三十三神とした。そしてこれが仏教に受け継がれ、須弥山の上に三十三天があり、そこに帝釈天など三十三の神が住むと説かれております。三十三観音にもこうした数字の影響があると考えられますが、観音経の三十三現身にちなんだと一般的には言われております。
三聖身(佛身、辟支佛身、聲聞身)
六天身(梵天、帝釈天、自在天、
大自在天、天大将軍、毘沙門天)
五人身(小王、長者、居士、宰官、婆羅門(ばらもん))
四部衆身(比丘(びく)、比丘尼(びくに)、優婆塞、優婆夷)
四婦女身(長者の婦人、居士の婦人、宰官の婦人、婆羅門の婦人)
二童身(童男、童女)
八部身(天、竜、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩喉羅迦)
執金剛神
 以上の三十三の姿に変化されお救い下さると説かれております。
 また次のような御名の三十三観音もあります。
楊柳観音(ようりゅう)龍頭観音(りゅうず) 
持経観音(じきょう)円光観音(えんこう)
遊戯観音(ゆげ) 白衣観音(びゃくえ)
蓮臥観音(れんが)滝見観音(たきみ)
施薬観音(せやく)魚籃観音(ぎょらん)
徳王観音(とくおう)水月観音(すいげつ)
一葉観音(いちよう)青頸観音(しょうきょう)
威徳観音(いとく) 延命観音(えんめい)
衆宝観音(しゅうほう)岩戸観音(いわど)
能静観音(のうじょう)阿耨観音(あのく)
阿摩堤観音(あまだい)葉衣観音(ようえ)
瑠璃観音(るり)多羅尊観音(たらそん)
蛤蜊観音(こうり)六時観音(ろくじ)
普悲観音(ふひ)馬郎婦観音(めろうふ)
合掌観音(がっしょう)一如観音(いちにょ)
不二観音(ふに) 持蓮観音(じれん)
灑水観音(しゃすい)
 美しく由緒あるお名前の観音さまばかりでございます。
 それぞれの言葉の意味は略しますが、法主さまのお言葉のように困った時に、助けてくださったと思われるお人のお姿、恩人の方が三十三の中に入っておられるのでないでしょうか。
 私(浄寛)は、神奈川県に住んでおりますが、郷土の偉人「二宮尊徳翁」は若かりし頃、旅の僧侶の観音経の訓読読経(通常は音読)に涙し、自分の進むべき道を決めたと言われております。民衆救済に一生を捧げた尊徳翁は「観音さまの示現」のおひとりではと思っております。
 観音院では一日三座不断の法要を執行しておりますが、特にご縁日にお参りされますと、願い事がかなうとご信徒さまからうかがいます。安産守護・無事成長、求子懐妊、家内円満、観音さまへのお願いは優しい思いやりに満ちています。「観音さまのご縁日」は毎月十七日・十八日と、第三土曜、日曜日でございます。とうぞ、皆さまもお参りくださいませ。 合掌九拝

タイトルとURLをコピーしました