寅さんと院家さんの世情談義(2)

「寅さん、そのうちに地震が来るで 今度は少し大きいかもしれん、死ぬな」

【院家さん】寅さん、大きな地震やら津波が来るそうで。いざと言う時に備えて、準備しとるか。

【寅さん】院家さんが言うから、タンスを固定したり、非常食も十日分くらいは買いました。

【院家さん】せんよりは、マシじゃね。中型のボートを買って屋上に置こうかと考えている。

【寅さん】何のために船を買うの。

【院家さん】この辺が水でザブザブになるからだよ。

【寅さん】また院家さんが脅しよる。そんなことがあるはずがない。

【院家さん】それがありそうだから、心配している。この辺でも二メートルくらい浸かるかもしれない。一旦、南海トラフがグラリと揺れると日本の東京から鹿児島あたりくらいまで高速道路は全部パーだ。新幹線も使えんよ。道路は十メートルおきくらいに陥没したり、盛り上がったりしてるだろう。

【寅さん】ほんで、ボートであちこちするために買うんか。それなら分かる。食糧は長くて十日分。薬やなんかも、いっぱい買っておいたほうが良い。

【院家さん】静岡やら名古屋、和歌山、四国沿岸に南九州は、多分ぐちゃぐちゃになるだろう。水道の水は出んし、電気は来ないし、テレビは見られない。運が悪いと、家で寝たまま海の中にどんぶらこだ。それはまだ軽い方で、瀬戸内海沿岸でも似たようなことが起きるかもしれない。

【寅さん】その時には、観音院に来るけえ、心配しとらん。

【院家さん】それが難しいんよの。早い者勝ちで。弱肉強食の地獄だな。実際は、役には立たないと思う。広島市民の半分くらいは、どうして良いのか分からなくて右往左往するだろう。家はぐしゃぐしゃ、食い物は奪い合い、建物の下敷きで死ぬ人間だけでも何万人も居るだろう。寅さんは生きられるか。

【寅さん】しっかり佛さんに拝むしか仕方ないな。

【院家さん】地震の当日に右往左往する人が一千万人、家に帰れない人が四百万人、病院に行き診察してもらえない人が三十万人、晩御飯が食べられない人が三百二十万人、水が飲めない人が二千万人。御飯は三日分備蓄しておけば、救済の時に御飯をもらえるでしょう。だけど、それも韓国、中国、アジア諸国、米国の救援部隊があっての話。食べ物なんかの支給は、途切れ途切れになるだろう。地方自治体もだいぶ物資を蓄積しておる。お年寄りも増えたし、過疎地も多くなったので、配給は困難を極めるに違いない。こんなことが近い将来に起きると新聞に書いてあるけどね。蓄積は易しいが、配給は困難。医療に至っては、お医者さんに診て貰うことが困難かもしれない。
トラフというのは、プレートとプレートのぶつかり合いで、高い山々や深い海の溝に成り易い。そのプレートの衝突が問題で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに衝突して、日本の大地が壊れながら、あちこちが盛り上がったりして山は崩れ、川は流れを変え、それが三十年か四十年分の変化をわずか一時間くらいでやってしまう。大変だわな。

【寅さん】そりゃ、話がでかすぎて、どうにもこうにもならんわ。避難しようにも新幹線は動かんし、大きな客船も無事で残って居ればいいけど無理かもしれん。まだ復興していない福島県や宮城県の方にでも助けを求めて行くことになるのかな。千年に一度の地震と言うから、縄文時代からだけでも五回や六回は来ているはず。日本から難民が出るかも分らない。

【院家さん】それに加えて、伊方原発や島根原発もどうなることやら。当分の間、電気や水道は不自由するだろう。温かい御飯が食べられるのは、震災発生から一ヶ月はかかる。年寄りが大方死んでしまうじゃろう。わしも危ないね。わしも寅さんも運が良ければ会えるかもね。どっちにしたところで、寅さんも私も逃げるのが精一杯。何もすることはないよ。墓石は間違いなく倒れるし、倒れただけであるのはマシな方で、運が悪いのは海に持って行かれる。広島は川が多いから、あちこちが孤立する。これだけ大規模な災害になると、直そうと思っても材木がないし、コンクリートも足らん。第一、職人がおらん。茶碗と箸を持って飢えた親子が並んで待つようなことになりかねない。
このような時に「いたわり、慈しみ、思い遣り、相手の立場で考える」ような人なら素晴らしいと常々説いて居るんだが。それが実行できる人がどれだけ居るかな。

【寅さん】いざとなったら、我先で他人のことまで考えられんのじゃないの。

今度は少し大きいかもしれん、死ぬな
【院家さん】八十年も生きて来て、一生懸命に教えを説いたが、一発の屁だな。

【寅さん】山も動くし、川は逆流するし、まさにこの世の地獄だな。海岸線には多くの遺体が流れ、街には腐臭が漂うはずだ。あちこちで親は子を求め、子は親を求めて泣き叫ぶだろう。

【院家さん】

【寅さん】多くの企業は、熟練した社員を失い、設備も流されて再起は不能だろう。当然政府は、全国の企業に向けて支援を要請し、金融も緩和されるだろう。然りとて、政府は企業ではないし、いわんや家族でもない。することは限られてくるたろうし、もしかしたら日本の経済が破綻してしまうことも現実味を帯びてくる。恐らくは、世界中の国々が日本を支援する方向に動き出すだろう。しかし、この度の震災の損害は、世界中が支援したくらいで立ち直れるような規模の額を超えている。

とは言うものの、日本という国がなくなって良いと言えるものでもないし、国際機関は困惑に包まれるだろう。いずれにせよ、それぞれの国にとっては遠くで起きた他の国の不幸であるわけで、道徳的な面で期待される程度の支援はするだろうけれども、その金額には限界が有って、復興には被災した日本人そのものが自ら工夫し働き、努力して日本の震災以前の姿を取り戻すしか方法はないと思われる。

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発行所 観自在社

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