大きなパワーをいただく象徴となるものです

仏教が隆盛し、七世紀中頃、「大日経」もとづいて胎蔵曼荼羅が描かれ、後に「金剛頂経」にもとづいて金剛界曼荼羅が描かれました。
 両界曼荼羅はお大師さまが恵果(けいか)阿闍梨(あじゃり)から伝授されて日本に請来(しょうらい)されたものです。
 密教寺院の本堂では、内陣の中央にご本尊さまと修法壇があり、その両側に両界曼荼羅が懸けられます。向かって右が胎蔵界、左が金剛界です。
 密教の教義を、大日如来を中心とした諸尊の配置によって図示したものが曼荼羅で、皆さまのお部屋に祀(まつ)られると空気が穏やかになり、平安な心と充実感、み佛さまに包まれた大きな安心があります。

胎蔵界曼荼羅
[胎蔵界曼荼羅]は詳しくは大悲胎蔵生(だいひたいぞうしょう)曼荼羅、胎蔵曼荼羅、中央に開花するのは八葉(はちよう)蓮華といわれ八枚の花弁の蓮華に仏が表されています。
 中心には白蓮上に法界定印(ほっかいじょういん)を結ぶ胎蔵界の大日如来が座し、それを巡って八葉上には、上から右回りに「胎蔵四仏」の、宝幢(ほうどう)、開敷華王(かいふけおう)、無量寿(むりょうじゅ)、天鼓雷音(てんくらいおん)の四如来を配します。
 この四仏の中間に東南より「四菩薩」の、普賢菩薩、文殊菩薩、観自在菩薩、弥勒菩薩がおられます。 この八葉蓮華を五色の界線で囲む中核の区域が「中台八葉院(ちゅうだいはちよういん)」といいます。
 この中台八葉院の上部におられる五尊の一列を遍智院(へんちいん)といい、その中央に三角火印があります。
 下部の五尊一列を持明(じみょう)院といい、般若菩薩を中心に、この院にのみ「明王(みょうおう)」が左右に二尊ずつおられます。
 この三院の両側に、三列七段ずつのの一群が並び向かって左が「観音院」で、蓮華(れんげ)を持つ観音菩薩の諸尊群であるので蓮華部院(れんげぶいん)とも呼ばれます。
 右は金剛手(こんごうしゅ)院で、金剛杵(しょ)や武器類を持つ諸尊で金剛部院と称されます。武器は煩悩や障害等を砕破(さいは)する威力ある法具として象徴されています。
 遍智院の上方に広がる二段の諸佛像は、中央門内の釈迦如来を主尊とする釈迦院といいます。 持明院の下方にあって、虚空蔵菩薩を中心に二段の諸尊が並び、左右両端に千手観音と金剛蔵王菩薩の多面多臂(たひ)像を配するのが虚空蔵院(こくうぞういん)です。以上の諸院を囲む外周帯は、上部から右回りに文殊院、除蓋障院(じょがいしょういん)、蘇悉地院(そしつじいん)、地蔵院が巡らされ、総計十二院からなります。
 最外周の最外院(外金剛院・げこんごうぶいん)には、二百余尊にも及ぶ天部諸尊がずらりと上部から右回りに居られ、ここに東南西北の四門を配置してあります。四天王や十二天などの天部と、薬叉、鬼神、十二宮などの星宿の神々、二十八宿等、曼荼羅の周囲
を警護する仏法護持の諸神です。
 よく見ますと堅固な城壁に守られて佛法と世間があるように思われ、また堅固で繁栄しているように思えます。諸尊諸佛は煌びやかな衣装で、緊張の中にも大きな安らぎがあります。
外金剛部院 文殊院
地蔵院 釈迦院 除蓋障院
観音院 遍地院 金剛手院
中台八葉院
持明院
虚空蔵院
蘇悉地院

金剛界曼荼羅
[金剛界曼荼羅]は画面は界線により九等分され、九種の曼荼羅からなる複合曼荼羅です。
 尊像ごとに円光の月輪(がちりん)の背景的な中に居られます。
 九会(くえ)の中心の成身会(じょうしんえ)は、具象的な仏の像を通して、金剛界法を表現する大曼荼羅になっています。
 内郭は五個の白円からなり、各円内は如来を中心に四菩薩が巡っています。
 成身会の中央は、大日如来[仏部]、下(東)は阿閦(あしゅく)[金剛部]、左(南)は宝生(ほうしょう)[宝部]、上(西)は無量寿如来[蓮華部]、右(北)は不空成就(ふくうじょうじゅ)如来[羯磨(かつま)部]の五円からなり、胎蔵界には無い宝部、羯磨部の二部を加えています。この五如来は金剛界五仏、五智如来といわれます。
 五智とは、大日如来の法界体性智、阿閦如来の大円鏡智、宝生如来の平等性智、無量寿如来の妙観察智、不空成就如来の成所作智をいいます。
 その周囲を外郭で囲み、郭内に賢劫千佛(成身会以外は賢劫十六尊)および外供養、四摂菩薩を置き、郭外に二十天を巡らしています。
 これが金剛界曼荼羅の基本形式で、九会(くえ)中の上から、二、三段の六曼荼羅はすべてこの基本形式になっています。
 成身会(じょうしんえ)の下方にある三昧耶会(さんまや・え)は、尊像の代りに三昧耶形(ぎょう)を描き、これによってより深い意念を伝えようとする三昧耶曼荼羅です。 三昧耶形は仏・菩薩が一切の生きとし生けるものを救済されるために起こした誓願(せいがん)を象徴するもので、諸尊の鈴や輪、金剛杵などの所持物や印相であらわされます。
 この左方の微細会(みさいえ)は、三昧耶形を超越し、金剛杵(しょ)や梵字(種子)の内奥の極微の世界に、全魂を凝集し、現象の奥にある理法を表す法曼荼羅です。
 その上方にある供養会(くようえ)は、社会行動をする際、互いに供養し和み合う世界を求める羯磨(かつま・行為)曼荼羅になっています。
 以上の大・三・法・羯の四曼荼羅を総称して、四種曼荼羅という供養会の上方の四印会は、大衆に理解しやすいように四種曼荼羅を簡略化したもので、尊像と三昧耶形併用の曼荼羅です。
 その右方の一印会(いちいんえ)は月輪(がちりん)内に、智拳印を結ぶ金剛界大日一尊を描き、瞑想のきわみに、佛と感応(かんのう)し、仏身と一如となる即身成仏の教理を象徴した金剛界総括の曼荼羅となっています。
 その右方の理趣(りしゅ)会は、「理趣経」による曼荼羅で、主尊は金剛薩捶(さった)、人間の愛欲を肯定しながら昇華することによって、この現世に「煩悩 即 菩提(ぼんのうそくぼだい)」を求める曼荼羅です。
 その下方の降三世会(ごうさんぜえ)、その下方の降三世三昧耶会では、従来諸天王の主であった大自在天を服従させた降三世明王が描かれています。
四印会 一印会 理趣会
供養会 成身会 降三世会
微細会 三昧耶会 降三世
三昧耶会
一印会
 
 胎蔵界曼荼羅が拡散展開して現象界の「理」をあらわすのに対して、金剛界曼荼羅は凝集内観して精神界の「智」を示すものとされて、両界曼荼羅は、理智不二(りちふに)の密教的世界観を具現しています。
 仏の悟りの世界、慈悲と智慧、仏を鮮やかな絵画であらわし、大日如来を中心として如来、菩薩、明王、天、神々、あるいは法具や梵字を整然とした秩序にしたがって、人々に解り易く開示したものです。

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