【寅さん】 不摂生はあらゆる生命を尊重しよう。不偸盗は他人の物を盗まない。不邪淫は淫らか心で淫らな事をしない。不妄語は何でも正直にする。不綺語は見栄を張らずに、よく考えて話そう。不悪口は悪口は言わないで優しい言葉を使おう。不両舌は二枚舌を使わない。不慳貪は憎しみなく施しをしよう。不瞋恚は腹を立てずに、にこやかに暮らそう。不邪見は正しく判断しよう。という事だったな。
【院家さん】 おお、寅さん。私の代理が勤まるようになったな。ついでに衣を着て数珠を持てよ。坊さんにしたる。
【寅さん】 いえいえ、とんでもない。院家さんの色々に苦労を見ていますので、私には到底できません。
【院家さん】 そうは言わずに、寅さんは相当立派な坊さんにすでになってするよ。
【寅さん】 坊さんになるのは構わないけど、あの沢山の書物を読んで院家さんのように読経して、何にも面白い事なんか無いじゃないか。
【院家さん】 そうだな、面白い事は何もないな。テレビでスターチャンネルとＷＯＷＯＷを観るくらいかな。正月は忙しいし、お盆は休まないし、やっぱり寅さんは辛いかな。
【寅さん】 別にそんなに遊びたいと思ってはいませんが、これだけ大きなお寺の責任持つだけで潰れてしまいますよ。
【院家さん】 そんなもんかなぁ。住みやすいように庫裡は拵えてあるし、建物は耐震性で頑丈だし、防火設備も良く出来ているし、失業は絶対ないし、定年も無い。
【寅さん】 人前で話をしようとすると、頭の中が真っ白になってもとおらんようになってしまう。観音院は説教が一日三度も有るので、私には到底無理だ。今でも若いお坊さんが話をすると、エーツウト、ソレカラ、が多いと信徒さんは露骨に苦情を言われるからな。
【院家さん】 いや、種本は有るのだ。それを短いのだから暗記して丁寧に話せば良い。それを偉そうな事を言おうとするから、もとおらんようになるのだ。
お坊さんは立派な話をして感心してもらおうと考えるなんてそりゃ馬鹿だ。十善戒に触れるじゃないか。不幸が始まるよ。坊さんが十善戒を守れなくて頭が朦朧としてもとおらん事を言ったりしたら、一巻の終わりだわな。
十善戒の心は「いたわり、慈しみ、思いやり、相手の立場で考える」事で、それ程難しい事では無い。それに、もうここまで来たら私の力で運営しようなんて考えずに、信徒さんにお任せし、経理も公開して良く相談してやればよいのだ。
月刊観自在 平成27年2月号から抜粋
