光然の高野山修行日記 ・十六

先月の修行日記で私が着用していた衣帯について、ご質問を数件頂きましたので、今回はその事について写真を多めにお話させて頂きます。

この茶色の法衣は上半身の「褊衫」と下半身の腰巻「裙」に分かれています。専修学院内では両方まとめて「褊衫」と呼んでいました。

そして二学期の加行期間は作務衣を除けば全てこの褊衫と如法衣(黄色いお袈裟)で過ごし、また以前二月号で話題にあげた受戒の際も褊衫と如法衣を着用したのです。

褊衫は一枚の生地として繋がれておらず、生地を二枚左右の肩にそれぞれ乗せ、襟の部分でそれが離れないように繋がれています。

その構造上、肩から垂れた前後左右が四つに独立しているので、それまで経験した事の無い着用法になり、着付けには少々慣れが必要になりました。

身に付ける順番は

一、裾を腰に巻く。紐の結び目は少し下っ腹に下げた方がズレにくい。

二、褊衫を羽織り、前左半身の布についている紐と、後左半身の布についている紐を結び合わせる。

三、右半身前後の布を、同じように結びあわせる。

四、如法衣を身に着ける。

と文章で書けば非常に簡単なものになります。

実際は、手探りで背中側にある紐を素早く手に取る事は中々難しく、同室者と互いに紐を手渡す協力をしたことも幾度か経験しました。
慣れて来ると紐が有る位置の見当がついて来るのですが、それでも慌てていると手は空を掴んでしまいます。

ひどい時は、結ぶべき紐とは逆の紐を結び付けてしまい、余計に時間が掛かる事も有りえるのです。

そんな事で遅刻してしまわない為のコツとも言えないコツを解説致します。

左半身され結んでいまえば何とかなると考え、慌てている時もひとまず落ち着きましょう。紐が付いている部分が内側に折れている事もあるので、左手で背中側の布を振りながら引っ張り、右手で掴みやすくします。次いで右手を肩甲骨当たりから布に沿わせながら下ろしていけば、背中の紐を迷わず手にする事が叶います。寒い季節になると指がかじかんでしまうので、うっかり取り落とさないよう要注意。

ここまでの手順と写真をご覧になって、違和感を覚えた方もいらっしゃると思います。

褊衫は襟の左側が手前に来る、いわゆる「左前」の形になっているのです。和装だと死に装束が左前となるので、あまり縁起の良くない形となりますね。

なぜ褊衫を左前で着用するのか、その理由は「元々インドの僧侶が褊衫を身に付けていた際は、左肩を覆う布しか無かった」という事が由来となるそうです。

元々温暖な地域で用いていたので、片方の肩で良かったのですが、中国等各地に伝播していく際にその土地の寒さに対応するため右肩にも布が加わる事となったのです。

そのため、慣習として元から有った左肩の布を手前側に、追加された右肩の布は外側に身に着けるようになったと、専修学院で教授頂きました。

作務衣に着替えてゆっくりする暇もなかった加行期間、褊衫はまさしく体の一部となっていたのです。

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