光然の高野山修行日記 ・十 後半

七時半:仏名会開始。配役となった伽陀師は、過去・現在・未来それぞれの礼拝間に伽陀と呼ばれる一風変わった声明[しょうみょう]の経頭[きょうとう]役。

次第に息が荒くなるが、礼拝が終われば息を整えるような間を開けず、発頭せねばならない。
途中、きちんと礼拝が出来ていない者や、礼拝をする内に衣帯がひどく乱れる者が出てきたためにお説教が入るもなんとかやり遂げる。

九時三十五分:仏名会終了。有志協力しすぐさま受戒の準備を始める。湿度が高いために濡れている板の間を拭き、お供物を下げ、必要となる物を出して行く。

与えられた時間が少ない事に加えて、着用するのに慣れが必要な褊衫という衣帯に着替えねばならないため焦る。

九時五十分:受戒(菩薩戒)。五体投地は無いものの、長跪[ちょうき]と呼ばれる膝を床に付けたまま体を真っ直ぐ上に伸ばす姿勢が長く続き、礼拝を堪能した直後の太ももと膝がプルプルする。

十二時:無事、菩薩戒を授かる。

すぐに昼の食事が始まるので、急いで受戒の後片付けと着替えを済ませる。

消化の良いお粥が朝食な上、仏名会で汗をかいた体に「ご飯、素麺(油揚げ、椎茸、三つ葉入り)胡瓜のキューちゃん」という昨今耳にする低炭水化物健康法を蹴飛ばすが如きワンパクな献立がボリューム塩分水分共に胃袋を満たしてくれる。
十三時:自由時間。受戒の後は心静かに過ごす習わしなので、勤行以外の予定は無しとのこと。「戒を授かった意味を考えて行動しないと、後悔させてやる事だけは約束してやる」との寮監主任からの有り難い訓示と共に、汗みずくの体を流すシャワーを使用する許可を頂く。

十四時半:夕勤まで盆供に向けた全体練習。

十六時:夕勤行。

こうして受戒の三日間は過ぎました。仏名会のお供えに用いられていた菓子パンと果物はお下がりとして頂けるのですが、果物等、甘味自体が学院生活では貴重品。特にパンは「卵」が用いられるため不精進物と判断され、外出の際購入して帰る事の許されない禁断の味と言ってよい物です。

二日目にお供えされたクリームパンは生地だけでなくクリームにまで卵が用いられているわけで、なんとも贅沢な一品となります。困ったことに食べ物の話は尽きそうにありませんが、終わりに一学期もあと少しという所で、今回は終わりとさせて頂きます。

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