仏法興隆の立役者

十一月、二十年ぶりに日本紙幣のデザインが改変されます。
 一万円札は従来どおり福沢諭吉と裏面に鳳凰像、五千円札は樋口一葉と燕子花図、千円札は野口英世と富士山・桜が描かれています(二千円札の守礼門と源氏物語絵巻図は現行通りで変更なし)。
 中でも、樋口一葉は、皇族以外の女性として初めて日本のお札で肖像画が描かれたとのことです。
 パソコンやスキャナー、カラープリンターが普及する近年、紙幣の偽造が容易になり、深刻な社会問題になっています。その状況を打破するために、政府は最新の偽造防止技術が盛り込まれた新紙幣を発行するに至ったとのことです。
 さて、皆さまは現在発行されているお札の、以前のデザインを憶えていらっしゃいますでしょうか。
 私も、遠い記憶で、お年玉に岩倉具視の五百円札、伊藤博文の千円札をもらったことは憶えています。一万円札は、昔のテレビの再放送などでメディアによく出てくるので知らない人も少ないとは思いますが、聖徳太子が肖像画で描かれていました。一万円札だけでなく、聖徳太子の肖像画は、五千円札、千円札、百円札にも描かれている時代がありました。

 聖徳太子は、五七四年、用明天皇と穴穂部間人皇后の皇子として生誕しました。厩戸の傍で生まれたので、厩戸皇子(うまやどのみこ)と呼ばれたという説もあります。「聖徳太子」という名前は、太子の死後に贈られたものです。
 聖徳太子は、日本最初の女帝、推古天皇の摂政として活躍しました。「日出處天子致書日没處天子無恙云々」と手紙にしたため、小野妹子らを隋の煬帝に遣隋使として派遣して国際的な交流を図ったり、冠位十二階や十七条の憲法で天皇中心の中央集権国家の体制を確立したりしました。
 また、聖徳太子は、日本における初期の仏教布教に大変重要な役割を果たしました。中でも、「勝鬘経義疏(しょうまんきょうぎしょ)」・「法華経義疏(ほけきょうぎしょ)」・「維摩経義疏(ゆいまきょうぎしょ)」の「三経義疏(さんきょうぎしょ)」の著書は広く知られています。
 また、法隆寺や四天王寺、広隆寺といった数々の寺院を建立しました。三宝興隆の詔を発した太子は、高句麗の僧、慧慈(えじ)を師として迎え、仏教への理解を深めようとしました。
 十七条の憲法の中に「篤く三宝を敬え」と述べられていますが、この三宝とは、すなわち「仏・法・僧」のことであり、仏と、仏によって説かれた真理と、その真理を体現する者のことです。

 観音院の常用教典「まことの道」の二十ページに「三帰(さんき)」が記されていますが、これも、三宝に帰依し、拠り所として生きていくことを誓う句であります。

 このように、聖徳太子は、仏教に帰依し、政治方針の根幹として採用しました。
 現在の日本で、仏教がここまで広がったのは、偏に聖徳太子のおかげといっても過言ではありません。宗旨宗派を超えて日本各地で篤い信仰が今も息づいています。

 仏法興隆の観点でいうと、中世期に活躍した「高野聖(こうやひじり)」といわれる僧侶、半俗の聖たちは、全国に高野山信仰を広め、日本の総菩提所として定着させ、お大師さまの恩徳を庶民にわかり易く説いて回り、仏教の布教に一役買いました。

 高野山の若い僧侶が、飛騨の山中の天生峠を行脚中に出会った女性に宿を借りることにしたのだが、実はその女性は、男を牛馬などの獣に変えてしまう妖怪であった、という泉鏡花の有名な小説のモデルにもなった高野聖の実態は、どのようなものだったのでしょう。

 中世の高野山では、「高野三方(こうやさんかた)」という、僧侶を区分する制度がありました。すなわち、上部層に位置し、弘法大師の教えを研究する「学侶方(がくりょかた)」、下部層に位置し、学侶方を支え、寺領の管理などを行う「行人方(ぎょうにんかた)」、そして、正式な僧侶の資格を持たず、高野山に留まらず、全国を放浪して、広く弘法大師の教えを説いて回り、高野山に納骨を進めるなど、勧進を主な役割としていた「聖方(ひじりかた)」の三分です。
 弘法大師空海の、真言密教の教えが世に知れ渡るに至ったのにも、高野聖の多大なる功績があげられます。
 高野聖は、教えを説くだけではなく、寺院建立のための寄付を集めたり、町の治水工事や橋の建設などの社会奉仕活動も積極的に行い、公益のために尽力しました。また、現世利益のために、俗世の悪因を取り除く祈祷も盛んに行っていました。
 荒廃した世間から逃れ、高野山に身を寄せて聖になる者もいました。
 また、各地の聖が高野山への納骨参詣を勧めた結果、戦国時代には武田信玄や上杉謙信、織田信長、豊臣秀吉といった名立たる武将が供養塔を建立し、中には、法然や親鸞といった宗教家のものまで造られました。
 高野山が日本第一の霊場になったのも、高野聖の活躍があったからこそです。

 現在、観音院では、世間に「聖」と呼ばれるような人格者を送り出すために、僧侶養成講座を行っています。
 仏法を広めて、住みよい街づくりを進めていくのは勿論として、世のために尽くし、いたわり、慈しみ、思いやり、相手の気持ちになって考えられる僧侶を育成していきたい所存です。
 東京道場でも、着実に僧侶が育ちつつあります。加行に来られている方は、お仕事の合間をぬって出仕されています。関東周辺の各県から電車などで通われています。
 観音院の僧侶になって、皆さまの豊富な人生経験を、世の人々のために使ってみませんか。
 随時、受講を受付中ですので、是非ともご一考なさってみてください。お待ちしております。

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