光然の高野山修行日記 ・十四 後半

話を戻しましょう。

火舎、塗香、樒の用意が完了したら、日が昇る前に日直が汲んだ井戸水、「閼伽水」を仏器に少量注ぎます。

「閼伽水」はその日に汲んだ物のみ用いる事が出来るので、こればかりは前日に用意する事は出来ません。

そうして全体の荘厳(飾りつけ)が終われば、時間を見計らって火舎と蝋燭に火を点けます。

概ね起床の鐘が鳴らされるのがこの頃でした。

あくまで体感ではありますが、加行道場と持仏堂は建物四、五階分の階段と、百メートルいくつかの距離があったように思います。
急ぎたい気持ちがあっても、ドタバダ走れば加行監督をする寮監先生のお小言が増えてしまいます。急ぎ過ぎず急ぐ程度で持仏堂に向かいます。

(またもや余談ですが、持仏前廊下の床板部分はきしむ音がしやすいので、端の框部分を摺り足で小走りするのが静かに急ぐ小技でありました)

持仏堂にたどり着いても、すぐに入る事は出来ません入り口前にある塗香器から、塗香を右手の人差し指と親指でつまり取り、左手の同じ指で半分に分け、手と体全体に塗香の清浄な香りを行き渡らせる作法をしなければなりません。

それ自体はすぐに終わるのですが、入口に学院生が殺到すると時間がない時にはやきもきしてしまいます。

自分の座坪に入ると、持仏堂の仏様に右肩を向け、先ほど置いた如法衣を頂きながら「袈裟の偈」の言う名の偈文「善哉解脱服、無相福田衣、披奉如戒行 広度諸衆生」をお唱えしてから加法会を身に纏います。

そして衣帯を整え、護身法加行後は護身法と言われる印を結び合掌して集会の鐘が鳴らされるのを待つ事となります。

起床してから最低限するべき事をまとめると、

一、起床、身支度、お手洗いも済ませる
二、持仏堂に如法衣を置き、少し離れた加行道場へ
三、火舎、樒、塗行香を用意
四、閼伽水を用意し、壇上の荘厳の確認する
五、点香
六、持仏堂へ戻る

書き出せばたったこれだけになりますが、移動や準備の時間もあり、起床の鐘で起きてから十分で用意できるかとなると、ちょっと時間が危うい事をご理解いただけるかと思います。

これからお話をする加行の進行で度合いも変わりますが、これだけははっきり言うことが出来ます。

「加行は時間との闘いである」と。

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